バーチャルオフィスで法人登記はできる?「◯◯業は登記できない」が不正確な理由
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「バーチャルオフィスでは古物商は登記できない」「宅建業はバーチャルオフィスNG」——検索するとこうした説明をよく見かけます。しかし、これは法律の条文を確認すると不正確な言い方です。
正確には、登記そのものは業種にかかわらずできます。壁になるのは、登記とは別の手続きである「業法上の許認可」の事務所要件です。 この記事では、会社法・商業登記法・宅地建物取引業法施行令・古物営業法の解釈運用基準という一次情報を確認しながら、「登記」と「許認可」という2つのレイヤーの違いを整理します。
なお本記事は制度の一般的な解説であり、個別の登記可否・許認可の可否についてはお答えできません。最終確認日はいずれも2026年9月17日です。
先に結論:登記と許認可は別物
- 登記(会社法・商業登記法の話):本店所在地としてバーチャルオフィスの住所を記載して法人登記をすること自体は、業種によって拒否される規定がありません。
- 許認可(宅建業法・古物営業法などの各業法の話):業種ごとに監督官庁が定める「事務所」の要件を満たさないと、営業に必要な免許・許可・届出が下りない場合があります。バーチャルオフィスの住所だけでは、この事務所要件を満たせない業種があります。
この2つを混同して「バーチャルオフィスでは◯◯業は登記できない」とまとめてしまうのが、よくある誤解の正体です。
会社法27条:定款に書くのは「本店の所在地」
株式会社を設立するとき、定款には必ず書かなければならない事項(絶対的記載事項)が会社法27条に定められています。e-Govの法令データベースで条文を確認すると、次の5つです。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
(会社法第27条・2026年9月17日確認)
ここで求められているのは「本店の所在地」という住所の記載であり、そこで具体的にどんな業種の事業を行うか、その場所に実体的な設備があるかどうかは、条文上の記載要件にはなっていません。
商業登記法24条:登記官が却下できる理由は15個、業種は入っていない
では、法務局の登記官は、申請された内容をどこまでチェックできるのでしょうか。商業登記法24条は、登記官が申請を却下しなければならない事由を15号にわたって列挙しています。e-Govで全文を確認すると、内容は次のようなものです。
- 申請先の登記所の管轄違い
- 登記すべき事項以外を目的とした申請
- 既に登記済みの内容の重複申請
- 申請権限のない者による申請
- 申請書が法令の定める方式に適合しない
- 必要な添付書面が付いていない
- 記載内容が添付書面・登記簿の記載と合致しない
- 登録免許税の未納付 など
(商業登記法第24条・2026年9月17日確認)
これらはすべて、申請書類の形式や手続き上の不備に関するものです。「本店として申請された住所に、実体的な事務所の設備があるかどうか」「その業種を営むのにふさわしい場所かどうか」を理由に却下する規定は、この15号のどこにも見当たりません。
これは、商業登記の審査が「形式的審査主義」と呼ばれる仕組みを取っているためです。登記官は提出書類が法令の要件を満たしているかを書面上でチェックする立場であり、その本店の実態を現地調査して業種ごとの適合性を判断する権限は、登記の手続きには組み込まれていません。
つまり、バーチャルオフィスの住所であることを理由に、法務局が古物商や宅建業だからという理由で登記申請そのものを却下する法的根拠は、商業登記法には存在しません。
では何が壁になるのか:各業法の「事務所」要件
登記ができることと、その業種を実際に営業できることは別問題です。多くの業種には、監督官庁の免許・許可・届出(いわゆる許認可)が必要で、その許認可の基準の中に「事務所」の要件が定められていることがあります。ここでバーチャルオフィスが要件を満たせないケースが出てきます。
宅地建物取引業:施行令が定める「事務所」の中身
宅地建物取引業法施行令1条の2は、同法3条1項にいう「事務所」を次の2種類と定義しています。
- 本店又は支店(商人以外の者にあっては、主たる事務所又は従たる事務所)
- 前号に掲げるもののほか、継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの
(宅地建物取引業法施行令第1条の2・2026年9月17日確認)
ポイントは2号の「継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所」という部分です。宅建業の事務所として認められるには、契約締結の権限を持つ人が常駐し、業務を継続的に行える設備を備えている必要があります。郵便物の受け取りや電話代行が中心のバーチャルオフィスの住所だけでは、この施設要件を満たすことは通常できません。実務上は、都道府県ごとの宅建業免許の審査で、事務所の実態(応接スペース・什器・独立した区画など)を確認されるのが一般的です。
古物商:警察庁の解釈運用基準が定める「営業所」
古物営業法についても同様の構造があります。警察庁が2024年8月に発出した「古物営業法等の解釈運用基準」(通達)では、古物営業法5条1項2号の「営業所」について、次のように解説されています。
「営業所」とは、人の営業の本拠であって、営業全般についての法律的事実的行為の責任の所在場所をいう。したがって、営業上必要な帳簿や商品を保管する事務所、店舗等を含めた意味である。
(警察庁「古物営業法等の解釈運用基準」第5の1(1)・2026年9月17日確認)
古物商の営業所は、単なる住所ではなく、帳簿や商品を保管できる実体のある場所であることが前提とされています。古物営業法では、取引の相手方の本人確認や、古物を受け取り・引き渡すたびに帳簿へその都度記載する義務(同法16条)もあり、これらを実施する拠点として機能する必要があります。住所だけを借りるバーチャルオフィスの契約形態では、この「帳簿や商品を保管する事務所」という実態要件を満たしにくいのが実情です。
他の業種にも同様の構造がある
建設業法や労働者派遣事業の許可基準など、他の許認可業種にも、それぞれの所管法令に「事務所」や「営業所」の実体要件が定められているものがあります。業種ごとに要件の中身も、審査の厳格さも異なるため、本記事では宅建業・古物商の2つを一次情報で確認した例として紹介するにとどめます。自分が営もうとする業種にどのような事務所要件があるかは、その業種を所管する官庁の公表資料で個別に確認する必要があります。
まとめ:2つのレイヤーを分けて考える
- 登記のレイヤー:会社法27条が求めるのは「本店の所在地」の記載のみ。商業登記法24条の却下事由に業種や事務所の実態は含まれておらず、バーチャルオフィスの住所でも法人登記の申請自体は通ります。
- 許認可のレイヤー:宅建業・古物商など一部の業種は、事業を始めるために別途、免許・許可・届出が必要です。その審査基準に「継続的に業務を行える施設」「帳簿や商品を保管する事務所」といった実体要件が含まれており、バーチャルオフィスの住所だけでは満たせないことがあります。
「バーチャルオフィスでは◯◯業は登記できない」というのは、この2つのレイヤーを混同した不正確な言い方です。正しくは「登記はできるが、業種によっては許認可の事務所要件を満たせないため、実質的に営業を開始できない」という状態です。
自分が営もうとする業種に許認可が必要かどうか、その許認可の事務所要件がどのようなものかは、業種ごとに大きく異なります。この記事は一般的な制度の解説であり、個別の登記可否・許認可の可否についての判断は行っていません。実際に法人登記や許認可の取得を検討する際は、行政書士・司法書士など専門家にご相談ください。当サイトでは個別のご相談には応じておりません。
参考にした情報
※本記事は2026年9月17日に上記の一次情報を確認して作成した、法制度の一般的な解説です。法令や運用は変更される場合があるため、実際の手続きの際は必ず最新の公式情報をご確認ください。